心の経年変化

結局

なんだかんだ悩みに悩んでいたにも関わらず、ギターを買った。楽器屋に行っては試奏をし、自分の耳だけを頼りに好みのフォルムや音を探る。

折角手にするのなら、ずっとこの先も手にしていたいギターが欲しかった。とはいえ、今はバンドをしているわけでもなく、特別作曲をしているわけでもない。買う目的があるかというと無いし、本当に必要かというと優先順位は低かったはずだった。ここ数年の買い物は大体が何かしらの目的があって、意味ばかりを追求していた。ギターを買うという事はそんな目的や意味が全くない、自分の欲求に素直になった結果だ。

結局気がついた時に手にしていたのはFender telecasterだった。様々なメーカーのテレキャスターを弾いてみたけれど、音の真髄はやはりフェンダーであり、自分自身の心情に素直になれるギターはフェンダーだったという事だ。

何度か試奏を重ねていくうちにリアピックアップでコードを鳴らした時のテレキャスター特有の鋭い音をいつの間にか好きになっていた。近頃までは限りなくゲインを上げた重低音のギターリフが好きだったはずなのに、最終的に手にしたギターがテレキャスターというのは心境の変化を著しく表しているし、何だか自分の変わり目を自覚している様な気がして面白かった。

高額な買い物、これまでにもカメラやレンズ、macbookといった物を社会人になってから必要経費だと言い聞かせ買ってきたが、今回のギターはこれまでの物以上に持ち帰る時の自分の心の高揚感に驚かされた。横浜駅から相鉄線に乗って、買ったばかりのギターを背負っている時の、何かが始まる感覚。ギターを買っただけで別に上手くなった訳でもないのに、不思議と自信に満ち溢れていた。10年前にお年玉を貯めて初めてギターを買った日を思い出した。

弾けなかった当初の事を思い出す事は難しい。Fコードが押さえられなかったはずのあの頃や、パワーコードだけの曲を必死に覚えてリズムなんて無視してひたすら掻き鳴らしたあの頃。漠然とした記憶だけは微かに残っているが、弾けなくて辛いとか、ギターを買ったけど挫折した、という記憶は全くない。

特別ギターが上手いとは自覚もないし、もっと上手い人は無数にいる。ギターだけは他人と技術的な面を比較する事なく、自分自身の時間に没頭できる大切な存在なのである。

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